容疑者Xの献身/東野圭吾

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

本格ミステリ。面白かった。よくできてました。個人的には「白夜行」よりこっちのほうが断然好きです。
感想はネタバレで以下に。







ネタバレ感想です。未読の方読まないように。


倒叙もの。
アリバイトリックかと思ったら入れ替えトリック、という仕掛けは非常によくできてます。まんまとだまされましたが、「顔のない死体は別人と思え」という本格の基本まんまですね。「身元を隠すために歯型を何とかしなければならない」という石神のセリフから→歯だけどうこうしたら歯型を隠そうとしたのがばれる→顔全部めちゃめちゃめちゃにしようというふうにミスリードされました。「技師」が途中から出てこなくなるのは気になってたんだけどなあ。そういえば犬連れたばあちゃんも途中から出てこなくなったな。そっちはミスディレクションか。
ただ、ひとつだけ。作品の根本にかかわる部分に疑問点が。
石神は本当に人一人殺さなければならなかったのだろうか?
川に沈められた富樫の死体は作中では最後まで発見されず、その意味で富樫の死体の隠蔽は成功していたと言える。石神のとった行動が「富樫の死体を解体して川に捨てた」だけだったら、どうなっていたでしょうか。富樫がいなくなったところで捜索願を出す人間はいない(宿の主人が出す可能性がありますが、あんな怪しい宿から人一人いなくなったところで警察はまじめに捜査するだろうか)、死体はいずれ腐敗して浮いて発見されるでしょうが、死体の身元は特定されるだろうか。特定されたとしても、その死体からは大まかな死亡推定時刻しか出ないでしょう。そうなった場合、母子はどれだけ警察の追及を受けるのか…。駄目かなあ。どうも石神が人一人殺す必要はない気がするんだが。
あともう一つ。あのラストはどうなんでしょう。あそこまで書く必要があったのか。湯川が靖子に真実を告げたところで切って「下人の行方は誰も知らない」方式にしたほうが、ラストとしては美しいんじゃないかと思います。